Bix
『長沢節と風景たち』という本の中に「私は今、プピ・アヴァティに首ったけ」という文章があります。プピ・アヴァティはイタリア生まれの寡作な映画監督で、映画を撮る前はジャズのクラリネット奏者だったのだそうですが、その代表作の「ジャズ・ミー・ブルース」に関して書かれたセツ先生の文章がいつも心にひっかかっていました。最近、「池袋モンパルナス」という本を読んだら、その中に戦前のセツ先生の青春時代が出てきてまたそのひっかかる感じを思い出しています。
しかし孤独な彼を支えたのはジャズ仲間たちだった。これが同じ芸術家でも画家仲間とはいちばん違う点だろう。画家同士ならどんなに仲が良さそうでも、お互いには常に永遠に敵なのである。
ところがジャズ演奏で音の響き合う仲間同士というのは、たぶん性のエクスタシーにも似た快感だろう……それは恐らく同性愛みたいなものか。楽譜をわざと外して即興(アドリブ)をしたときの仲間のあの眼が優しいのは驚異だった。
「ジャズ・ミー・ブルース」はジャズ・エイジと呼ばれる1920年代に活躍した天才コルネット奏者ビックス・バイダーベックを描いたもの。とても美しく、哀しく、すてきな映画です。
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