Setsu. 1992-1995

1992年の秋から1995年の暮れまでの、長沢節先生の言葉を中心としたセツ・モード・セミナーの点景集 。 copyright (C) GRINO.

日本人はおしゃべりがへたくそ、まわりの人のおしゃべりがきこえない位、大きい声で話してはだめよ。

オレなんかも飲むよ!そこにいいバーがあるの。食事の後に「アン・キャール」っていうの、1/4っていうイミよ。1/4リットル、ワインを飲むの。それがちょうどいいの。日本食のときはおちょこに一本だけ。めったに二本は飲まないよ。いいお酒なの。

ヨーロッパの人もお酒は好きよ。でもめったによっぱらわないよ。よっぱらったり顔を赤くした人なんてヘンな人だと思われちゃうもの。あれは日本人だけだよ。また、女の人の前だとかっこつけて。男がバカみたいに飲むの。でも最近はそうでもないみたい。ムカシはそういうの、多かったのよ。

セツの七不思議(最大の不思議は「セツ先生」という生き物ですが)

中庭は1階の高さにあります。中庭には遠くからも見える大きな木が2本ありました。20メートルはありましたか。卒業生が植樹した「セツの木」なのですが、中庭はその下に土がありません。下は半地下の先生の部屋があるので、土どころか何もない空間です。なのに何であんなに大きく育ったのでしょう?根っこはどこに伸びているのでしょうか?「パリに伸びているんだよ」という冗談もありましたが。

半地下のお部屋は、「遅く帰って来て、階段上がるのがおっくうだと使うのよ」というものでしたが、ホーム・バーがあって素敵なお部屋でした。

バスタブの合理性と経済性について、絵を描きながら説明して下さいました

日本の風呂桶は、ひざをまげて入るでしょ。

だから、全身にお湯を浸かるためには、こんなにお湯が必要なの。でも、オレのバスタブだとね、こうしてまっすぐに寝て入れるでしょ。だから、お湯はほんの少しでも、全身に浸かれるのよ。経済的!


…説明の為に描いた絵を見ながら

オレのちんぽこはもっと大きいね!

先生は一日に何度か、おめしかえをしてきます。その度にお風呂にはいるのだそうです。むかしは、お風呂が大嫌いだったのだそうですが、西洋風のバスタブを使うようになってからは大のお風呂好きになったそうです。プライベートルームではそのままフルチンですごすそうです。

時々、「オマエ!美少年だから先生の部屋へ行って○○の雑誌をとってきてくれ!」と生徒が上へやられます。もどってくると「コーヒー飲みな!」と言って耳をつままれます。

1階は吹き抜けのロビーです(厳密にはそこで2階ぶんですね)。そこから階段を上がって2階と3階は教室です。先輩たちが色を塗ったという白い椅子というか台がたくさん並んでいました。その上に乗ってからも、デッサンをします。窓が大きくてシンプルで、とにかく気持ちのいい空間です。3階の教室から、先生の部屋へ通じる階段が見えます。「入室厳禁」の札が下がっていました。

今もセツの上に住んでるおかげで、階段下りて教室のぞいていいモデルがいると、もう素通りできない。今日は休もうと思っていても、若い人たちと一緒になって描きたくなっちゃう。

-------------- アサヒグラフ特集「セツ神話」より

セツの建物はセツ先生が設計したものです。白くて、シンプルでカッコよくて。セツ・モードセミナーの歴史にはいくつかの場所がありますが、私たちにとっては舟町のあの建物です。

その建物の最上階の部屋にセツ先生は住んでいました。のちに、近くのマンションに移られたそうですが、私たちが通っていた頃までは、セツの建物に住まれていました。…というよりも、私たちが、セツ先生のアトリエ兼自宅にお邪魔していたわけです。学校、というよりもやはり私塾なのですね。

絵なんていうのはオレたちみたいな絵を描くしかない人間がうまく描くもんで、美少年や美少女なんてのは絵なんて描けなくても生きていけるんだから、ズルイー!プーッ!

professeur raisonnable

セツ先生はとても合理的な人でした。過去には画板と紙入れ兼用の「ふたつ折り画板」というものを制作したり、さらに安価なベニヤ板で作る折りたたみ式の画板を考案したりと、生活自体がシンプルな方でしたが、絵に使う道具などもより便利なように工夫されて、シンプルで無駄のないものを考えられていました。

その工夫のされ方、というのは少しおおげさな言い方ですが、無駄をはぶいていく“引き算”的な考え方だったように思われます。

いろんなものを「削ぎ落として」生きているように見えたセツ先生。

描かないと死んじゃうよー」と言っていたセツ先生ですが、絵を描くということの大いなる「無駄さ」について、時折おかしそうに語っていたことも、思い出します。

額縁を購入する際のセツ先生の説明

水彩はこれだけだと何の価値もない。ネ、きれいじゃないでしょ。

と言って、教科書に乗っているセツ先生の水彩タブローを「ポイ」と放る。

でもこうしてガラスに入れると…ホラ!

水彩の絵は、額縁に入れないと何でもないのよ。額縁に入れたら300万円!

額縁はネ、ガラスとアクリルの二種類があります。水彩は、ガラスの方がキレイに見えます。割れやすいけどね。アクリルは丈夫だけど、値段はアクリルの方がするよ。でも、セツでは一括で注文を出すからとても安いのよ。みんなも、だから額縁はひとつかふたつは持っていなければダメよ。


縁はシンプルな白です。B2版の額縁としてはとても安いものでした。